2019年5/17。ゲーム分野で長年対立してきたソニーとマイクロソフトが業務提携を発表した。提携内容は、クラウドゲーム分野だけにとどまらず、ソニーが得意とする半導体、世界シェア50%を誇る画像センサー、ソニーのゲームコンテンツ、テレビ事業など多岐にわたる。
一方、マイクロソフト側は、同社が手がけるクラウドサービス「マイクロソフトAzure(アジュール)」、AI分野を技術提供する。
マイクロソフトは他にもOS事業「Windows」など多くの業務を手がけているのに対し、ソニーは虎の子の一番の稼ぎ頭の「半導体」「ゲーム分野」をマイクロソフトの業務提携に提供しており、「不平等条約」にもみえる。
提携の際には、ソニー本社の吉田社長が直々にアメリカのマイクロソフト本社まで足を運んだ。「軍門に下った」と指摘する人もいる。
しかし今回の業務提携は、実は理屈は通っている。その理由を紹介しよう。
AIや半導体の協業もうたわれていますが「ソニーがマイクロソフトのクラウドの顧客になった」というのが主たる中身--。両社の発表文を読んでの印象です。ソニーにとってゲームは稼ぎ頭であり、前社長の古巣。どう進化させるか。吉田社長の本気度と手腕に注目したい。 https://t.co/rPxefYk3k5
— 村山 恵一(日本経済新聞) (@kmurayama) May 17, 2019
ソニーとマイクロソフトが提携した理由 お互いにメリットしかない
激化するクラウドサービス事業
クラウドサービス(ネットワーク上で様々な商品を提供する)と言えば、民間ではあまり成功したとは言えず下火になっているが、実は、企業はバリバリ使っている。
例えばAmazonが手がけるクラウドサービス「AWS」は、多くの企業が使っており、PSストアやニンテンドースイッチでも使われている技術だ。
例えばCloudflareという無料のクラウドサービスは、多くのサイト2ちゃんねる等でも使われおり、アクセスが集中してサーバーがダウンしないように、クラウド上でサイトをコピーしてユーザーに表示している。うちのサイトでも使っている。
そのクラウドサービスは、Amazon「AWS」がトップシェアで、マイクロソフト「Azure(アジュール)」が2位、他が追いかけてる状況だ(上の画像)。
(マイクロソフトAzureのサーバー。日本にも2ヶ所ある。)
クラウドサービスは世界各地に専用のサーバールームを用意する必要があり、ものすごく初期投資にお金がかかる。何兆円という世界。
ソニーはこのインフラ(産業の基盤となる施設)を持っておらず、PSストアもAWSを利用している。
グーグルの「ステイディア」など、5Gの通信規格でスマホなどでクラウドゲームの時代がくると、クラウドサービスのインフラを持っていないソニーは出遅れる可能性がある。なのでマイクロソフトと提携した。
自前で強力なデータセンターなどを抱えないソニーにとって、クラウド分野は他社と協業して弱みを補完する領域といえる。
企業向けクラウドサービスを重視するマイクロソフトにとっても、クラウドサービスの拡大にとってゲーム世界2位のソニーと組むメリットは小さくない。
マイクロソフトの思惑は?
マイクロソフトとしても今回の提携はWin-Winだと言える。
マイクロソフトのゲーム事業「XBOX」はあまり順調とは言い難い。XBOXを売るより、ソニーにクラウドサービス「Azure(アジュール)」を売った方がよっぽど儲かる。
今回の提携では、ソニー側は「半導体」や世界シェア50%以上を誇る「画像センサー」(スマホなどで必須の技術)、「ゲームコンテンツ」を提供するとしている。
XBOXはソフト(ファーストスタジオ)が弱かったので、ソニーのIP(コンテンツ)は喉から手が出るほど欲しかっただろう。
自社が提供するクラウドサービスを、ゲーム分野世界2位のソニーが利用する(1位は中国のテンセント)、企業としては最高の顧客だ。
今回の提携はマイクロソフトとしては、メリットしかない。
グーグルとアップルがゲーム事業に参入
先日、グーグルのクラウドゲームサービス「ステイディア」が発表された。アップルも月額料金を払うとスマホなどでゲームが遊び放題になるクラウドゲームサービス「アップルアーケード」を発表した。
ネットやスマートフォン事業でトップを走る(Andoroidはグーグル開発)この2社のゲーム事業への参入は、ソニーとマイクロソフトにとって最大の脅威であり、実際スマホ事業ではボロ負けしている。
グーグルやアップルのゲーム事業への参入に対して、ソニーとマイクロソフトは協力して対抗する事を決めた。
中国勢やサムスンと競争していく上で、ソニーは生き残るために提携を選んだ
ソニーが5割のシェアを握る画像センサーでは、従来のスマホ向けカメラに加え、車載カメラ分野が立ち上がりつつある。車載カメラではAIを搭載したエッジ処理とクラウドとの連携が求められるとされている。
画像センサー市場の成長を見越して、既に画像センサーでシェアを持つ韓国・サムスン電子だけでなく、中国勢も開拓に本腰を入れはじめた。
ソニーが自前にこだわれば、投資はかさみ、対応に時間もかかる。「中国勢などの変化の速さに対応するには、様々な提携が欠かせない」。あるソニー幹部はこう話す。競争すべき分野、協調すべき分野を明確に設定し、足りないパーツはオープン化で補う。
今回の提携でソニーが虎の子の世界トップシェアの「画像センサー」を提供したのは、韓国サムスンや中国勢との競争を考えての事だとしている。世界市場で生き残るために、ライバル企業との提携を選んだとの事。
ソニーの吉田憲一郎社長は、グーグルとアマゾンを「脅威」と考えている
――ソニーが今後直面するリスクは何だと考えますか。
グーグル、アマゾンなどのデータメガプレイヤーの存在は大きい。ソニーは「人ってそれぞれ個性があるよね」と言って人に近づくことで生き残ろうとしているが、メガプレイヤーは力があるのでいろいろな打ち手があり、脅威です。
ソニーはGAFAと直接対決はせず、生き残ることを選んだ
「メガプラットフォーマーを目指すべきではない」とソニーの吉田社長は話す。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、Amazon)などと正面から勝負せず、ユーザーと深くつながる「ニッチプラットフォーマー」を目指す。ソニーのプラットフォームであるプレイステーションはデータの質で勝負する。
つまり吉田社長の考え方としては、ソニー自前でクラウドサービスのインフラ(サーバー)を世界各地に用意するのではなく、足りないものは他の企業と「オープン」に業務提携して、GAFAなどの巨大企業は「脅威」だが直接戦わず、ソニーが生き残る道を選んだ。
この決定に違和感を感じるのは正しくて、今までソニーは「独自規格」にこだわってきた。プレイステーションもそうだしウォークマンもPSPのメモリーカードですら「独自規格」だった。それが方針転換して、マイクロソフトのネットワークインフラとAI技術を利用すると発表した。ユーザーが受け入れるには時間がかかるだろう。
【編集後記】
マイクロソフトのAIコルタナを、ソニー製のテレビやスピーカーに採用するとか日本経済新聞に書いてたけど、絶対やめてね。
Windows10のコルタナってウイルスかっていうくらい嫌われている。実際個人情報をマイクロソフトに送信しており、スパイウェアだとしか言いようがない。
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